2015年12月25日金曜日

懲役13年半の許永中受刑者が日本から韓国に移送できた事情

2012年12月20日 07時00分 (2012年12月20日 07時33分 更新)
「人間、一生ずっと勉強ですわ」
 刑務所に面会に訪れた30年来の親交がある経営者に、相変わらず巧みに話題を振りながら、最後にこういったという。
「わしの最後の仕事は、北朝鮮の資源やと思うとるんですわ。一緒にビジネスをやる企業も、何をやるかも、もう決めとります」
 日本の20世紀犯罪史に名を刻む在日韓国人実業家・許永中受刑者(65)はそう言い残して、12月13日、韓国に移送された。ジャーナリスト・伊藤博敏氏がレポートする。(文中敬称略)
 * * *
 なぜ懲役計13年半を背負った重罪の許永中に、受刑者移送制度が適用されたのか。
 
 元警視庁通訳捜査官で、外国人犯罪対策コンサルタントの坂東忠信がいう。
 
「原 則は、日本で犯した罪は日本の刑務所で償うことです。さらに、コソ泥のような微罪ならともかく、許永中受刑者のような大物に母国移送が適用されることは、 両国の外交問題に発展しかねないので通常は考えられない。そもそも制度自体が法務大臣の決裁が必要で、滅多に行なわれることはなく、政治マターだったとし か考えられません」
 
 実際、制度の適用はレアケースである。
 
 日本は2003年に移送条約を締結した。2011年 12月末までの間で202人の外国人受刑者が制度を適用されて帰国している。平均すると年に25人ということになるが、1年間の外国人犯罪者は約1万人な ので、極めて低い確率でしか適用されていない。望んでも帰れるものではなく、日韓の政治家の思惑がそこに働いたとしてもおかしくはない。
 
 日本は総選挙の直前であり、判断を下す滝実・前法相は引退を表明していた。
 
「法相にすれば思い切った決断をしやすい時期といえ、許氏と非常に近い関係にあった大物ベテラン代議士が働きかけたという情報が流れている」(永田町関係者)
 
 生まれ育った日本を出た狙いを、知人が説明する。
 
「彼 は重い持病を抱えていて刑務所生活が耐えられない身体になっている。実際、公判中には狭心症の発作で2度も倒れている。韓国に行けば、政財界に人脈を持っ ているので、恩赦の制度を利用しての早期釈放が計算できているのだろう。最後に親しくしていた韓国人女性との間に男の子がいる。家族3人で一緒に暮らした いと聞かされていた」
 
 だが、“浪速の怪人”と呼ばれ、頭のキレと発想力は抜きん出ている許が、今後おとなしくしているとは思えない。大物政治家や財界人が魅了されたのは、大阪コリアタウン構想や第二国技館構想といった夢のあるビッグプロジェクトを次々に打ち出せたからだ。
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